060463 ランダム
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てんたま<1>

         
 天使のたまごのそだてかた。<1>
          

       

ずーっと、ずっと昔、

妖精さんと人間は仲良しだったの。

・・・・・じゃぁ、いまは?


これは森に生きる妖精さんと、1人の女の子との嘘のようでほんとのお話。

妖精さんは今も元気でいるのかしら・・・・・。


★1★
  


「・・・・・・・・っ、はぁ? 今なんて・・・・。 ・・・・・・ええっ?」

私は自分の耳を疑った。
出来ることなら今両親の口から聞いた言葉は私の聴き違いだと思いたかった。

「だから、今年の夏休みは父さんもお母さんも急に仕事で海外に行く事になったから、
明には森の別荘で一人暮らしをしてもらわなきゃいけなくなったんだよ。」

「明ちゃんごめんなさいね。
お母さんたち夏休み直前にこんなことになるなんて思ってなかったから、
海外のお友達にこの家にしばらく滞在してもらうことにしてたのよ。
ほら、3人で行こうって言ってた別荘。
そこで明ちゃんは休みのあいだだけvv」

・・・・何言ってんの?

・・・・海外の友達が滞在?

・・・・一人暮らし?

「いやぁ~、父さんたちも森での一人暮らしは心配だからどうしようかとおもったんだけど、
明じゃあの人たちと会話もろくにできないだろぅ?
あそこは父さんたちも昔住んでたところで凄くいい所だから。」

「引越しの方も昨日予約しておいたから大丈夫よvv
きっと明ちゃんも気に入るわ、あそこ。
とっても綺麗な湖もあるのよ♪」

・・・・・・・・・・えっ!?
・・・・・・えっ? えっ??

目の前には笑顔で微笑む父と母。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)

(・・・・・・・・・・・・・・・・んっ?)

「えぇーーーーーーーー!?
何二人とも勝手に決めてんのよぅ!!
夏休みって・・・、明日終業式なんだよ!?」

私はテーブルを ダンっ! と叩いて抗議した。

「とにかくいやっ!!
私は友達の家に泊めてもらうから!!
森ん中で40日も過ごすなんてぜぇ~~~ったいに嫌っ!!」

お皿の上の目玉焼きにフォークをブスッと刺してプンプン怒りながら口に運ぶ。
一気に食べて牛乳をゴクゴクと飲む。
そして、怒りをあらわにしてグラスを「ドンッ!」と置いた。

(・・・・・・・・・・・・ん?? 反応ないなぁ?)

そう思ってちらりと目線を上げた瞬間。
・・・・・・・・私はすべてをあきらめた。


「行くわよねっ! 明ちゃん♪」


お母さんは普段は優しいけど、怒るとそれはもう、ほんとーにっ怖い。
こんなに笑顔で脅迫する人もそうはいないだろうなぁ・・・
眉をヒクヒクさせて、テーブルに両手をついて、私の顔から8cm位にいる。
助けを求めようと横目でお父さんを見たんだけど、
お父さんも新聞で顔をわざとらしく隠してる。

「もちろん、い・く・わ・よ・ね・♪」

「・・・・はい・・・。
 喜んで行かせていただきます・・・(泣)」

食事をすませてトボトボと部屋に戻って、私は大きくため息をついた。
(・・・はぁーーー・・・泣)


!!


っと、自己紹介が送れてたね。
私は明<あかり>。林原 明。
中学2年生の元気ハナマル印のごくフツーの女の子・・・のはず。
まぁ、森の中で一人暮らしを始めるんだからもうフツーなんて言えなくなっちゃったんだろうけどさっ。

さっきの凄くマイペースな人たちは私の両親。
二人とも木とか、花とか・・・、とにかく自然が大好きなの。
だから、ほら、私の家都会の真ん中にあるのに緑にあふれてるでしょう?
自然保護のお仕事してるんだって。
だから1年中世界を行ったり来たりで。
今年の夏は珍しく3人揃って過ごすはずだったのになぁ・・・。

「一人暮らしかぁ・・・。」

・・・森のど真ん中で(泣)。
スーパーもないっ!
本屋もないっ!!
マックもないっ!!

「あああぁぁ~~~~~(号泣)!!」

私は頭をかかえてベットにコロンと転がった。
窓から見える憎いほど澄んだ青と、道を走る車・・・。
それからちらっと庭の木に目をやる。


・・・そりゃあこがれてたけどさっ。
大学生になったら一人暮らししてみたいとか思ってたけど。
でもっ!!
でも、でもっ!!!
私一人、森のど真ん中で何しろっていうのよ~~~~(怒)!!!!

すべての始まりは、そう。

これだったのかも知れない・・・・・・。


窓の外でサワサワと音をたてて揺れる木の葉。

風で飛ばされないようにと、しなやかに体を揺らす木々。

そとは


・・・・・・・静かだ。

      

★2★

学校の終業式が終わるとそのまま別荘へ。
初めて行くそこは、本当に森の中にちょこんと建っていた。
丸太で作られた小さなペンションのようなログハウス。
家の周りには柵があって、野菜が作られてて、お花も自由に咲いているといった感じになっている。
(きっと父さんたちが時々見に来ているんだろうなぁ)

私は今、昨日の朝に突然一人暮らしをすることを知らされて、大急ぎで必要なものを詰め込んできたダンボール箱を、一つ一つ開けてはタンスに詰め込む作業の途中。


・・・・・・・・・・。

(あっ!! やばっ!! 
 学校で渡された夏休みの宿題、家に忘れてきちゃったよぅ)

「お母さんに電話してここまで持ってきてもらわなくちゃね。
 えぇ~っと、携帯、携帯・・・・っと。」

(・・・・・・・・・。)


私はカバンから携帯を出して愕然とした。

ーーーーーー 「圏外」------。

「も~~~~っ!!
 なにが「何かあったらこれで連絡してね♪」よっ!!
 そ~よっ!!
 こんな森のど真ん中、電波なんてあるわけないじゃないぃ~~~!!
 だぁ~~! だまされたぁ~~~!!」


私はワナワナと携帯を握り締めて部屋の隅っこめがけて投げ飛ばす。

・・・・・・ガンッ!
・・・・・・ポトッ!

それは壁に当たって丁度その右下にあるゴミ箱に落ちた。
ふーーっ、っと肩を落とすワタシ。

「・・・・・・。
 残りは後で片付けよ~っと。」
私は靴を履いてそのままダンボール箱でいっぱいの部屋を飛び出した。


森の中は今の日本とは思えない位に静かで、きれいで、空気もおいしい。
私が13年間生きてきた街中とは、あまりにも異なる空間。
少し家の周りを歩くだけのつもりだったけど、時計をちらっと見て、まだ時間に余裕があることを確認すると、私は吸い込まれるかのように森の奥へとさらに足を進ませた。


暑いはずの夏なのに、私はそれを感じなかった。
姿は見当たらないけど、囀る鳥たちの声と風によって音をたてる木々。
辺り一面に咲く花々。
そこは、ほのかに温かかった。


少し経って湖に着いた。
(お母さんの言ってたきれいな湖ってここのことかぁ・・・・・・)
行く前にお母さんたちはこの湖のことを大絶賛していた。
なんでも2人が初めて出会った思い出の湖らしくて。
私のお父さんとお母さんは大恋愛の末に結婚したらしい。
両親も兄弟も親戚もわからないお母さんを、お父さんの父、つまり私のおじいちゃんは大反対したそうで。


私はそんなことを反芻しながら水面を覗き込んだ。


(うわぁ・・・・・・。
 ホントに綺麗だぁ・・・・・・。)


見たところかなり深さはあるようだったけど、水が澄み切っているから下の方までよく見える。
少しみどりがかった青。
風によって葉が一枚落ちると、綺麗に弧を描いて波紋が広がった。
そして、少し遠くへ目をやった時、私の目に何かが映った。


(・・・・・・何・・・・・・?)

白い・・・・・・。
茶色の・・・・・・。

ーーーーーー女の子だ。


白い布の服を着て、少し赤茶けたウェーブかかった髪を垂らした女の子が向かい側のほとりにある小さな切り株に腰を下ろしている。

(私とおなじ歳くらいの子・・・・・かなぁ)

こんな森の中で人がいたというだけでもなんだか嬉しかったし、なにより私は興味本位で近寄った。


「こんにちは」

!?


私は勇気を出して話しかけてみた。
女の子は突然の背後からの声に一瞬体をこわばらせたものの、きょとんと綺麗な碧色をした目で私をみつめている。
(怖がらせちゃったかなぁ・・・)


「何してるの? ここで。 今、一人?」

再び勇気を出して聞いてみる。

・・・・・・見てるの。湖を、見てるの。


(そりゃぁ、見ればわかりけど・・・)


「私ね、明っていうの。
 <明日>の<明>っていう字で<あかり>。
 夏休みの間中ずぅっと訳あってここで一人暮らしすることになっちゃって。
 名前・・・・・・・、聞いてもいい?」

覗き込むようにして私は彼女に尋ねると、コクンと彼女は頭を下げた。

フローラ

(?)

私は、フローラ。
 子供の時に親を亡くして、それからずっとこの森で暮らしてるの。


(・・・・・・!!)

「ごめん!!
 ・・・・・・辛いこと思い出させちゃった?」

ううん。
 ホントに昔の頃だから私も全然覚えてないし。
 気にしないで。
 ・・・・・・そうだ。
 この辺りのこと来たばかりならあんまり知らないんじゃない?
 良かったら案内するよ、私。



 ザァァァ・・・・・・


 突然辺りに強い風が起こった。
 私と彼女、------フローラの髪がなびく。

 ----------これが私とフローラの出会いだった。

★3★

 フローラと私は15分もするとすぐに打ち解けて仲良くなった。
 今日、しかも今さっき知り合いになったばかりなのに初対面の気すらしない。
 フローラはこの森にある大きな湖の近くにある珍しい蝶のいる所や、綺麗なお花が辺り一面に咲き乱れている所とかに案内してくれた。
 でも、時計の針は7:00過ぎを示していて、森は奥に行けばいくほど暗くて、木々が私たちに覆いかぶさってくるような気すらした。

(怖い・・・・・。辺りもだんだん暗くなってきたし・・・。)

「そろそろ、帰る・・・・?」

「あ・・・、うん・・。」


 フローラが切り出してくれてほっとする私。
 フローラはこういうのには慣れてるから平気なのかな・・・?
 

「ねぇ、フローラ。フローラの家ってどこにあるの?
 たまには・・・・、その・・・。
 遊びに行ったりしてもいいかな?」

 帰り道私はフローラに聞いてみた。

「え?」
 私からの思いがけない言葉にきょとんとするフローラは、やっぱり少し経ってから私に話をしてくれた。


「・・・・・・・・・・・・・。
 明がこの湖に来てくれたら、いつでも会えるよ。」


「・・・・?」

「私、毎日ここの湖を見に来てるから。」

「・・・・え? 毎日、来てるの?
 ・・・・ここに?」

「うん。ここに来てたら森の動物たちにも会えるから淋しくないの。
 湖を眺めるのもすきだし。」

「・・・・・(汗)」

「???」

「私の家に来る? フローラ。」

「えっ!?」

「私もこの夏休みの間中ずっと一人暮らしだし。
 服も食べ物の沢山持って来たし、湖からも近いし。
 1人よりは2人の方が絶対楽しいって!!」
 私は親指をピンッと立てた。
(フッ・・・。決まったワ★)

「--------。」

「--------。」

(あ・・・っ、あれ?)
 いい加減自分で虚しくなってきて腕を下ろそうとしていた時、フローラは怪訝そうに言った。

「いいの?」

「もちろんだよ!! だって、友達でしょう!」

「-------友達って・・・。私たちさっき知り合ったばっかだよ?
 それなのに友達って言ってくれるの?」

私はにっこり笑ってこう言った。

「お話して、遊んだからもう友達!」
そして、もう一言。


「ココロに時間はいらないよ。」

 フローラは笑って[[ありがとう。じゃぁ、お言葉に甘えて。]]って言ってくれた。

 だけど、フローラの表情がそう言う前に少し曇ったのは気のせいかな?
きっとそうだよね。

 だって、こんなにも嬉しそう。

「よろしくね。」

「こちらこそ。」

 きっと父さんたち驚くだろうなぁー。
 知り合ったばかりの子とこっちにいる間ずっと暮らすって知ったら。
 でも、幸いなことに唯一の連絡手段の携帯も「圏外」表示。
 このことは、私とフローラだけの秘密。



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